負荷過渡応答 – ループ安定度テストの強化

スイッチングコンバーターの安定度を検証することは、電源の設計に不可欠です。スイッチングコンバーターの安定度を確認するためには、周波数ループ応答と負荷過渡応答が多く使用されます。設計の検証に対しては周波数ループ応答がますます重要になっていますが、これまでと変わらず負荷過渡応答も一般的に使用されています。負荷過渡応答は、パルス幅変調(PWM)信号の正のデューティーサイクルを時間軸上に可視化することで増強することもできます。最新のオシロスコープはこれを行えるだけでなく、未知のコンバーター効果を特定するのにも役立ちます。

R&S®MXO 5 オシロスコープ
R&S®MXO 5 オシロスコープ

課題

適切で安定した動作を確保するループ安定度を実現するには、電源の設計を検証する必要があります。現在、周波数ループ応答が、コンバーターのループ安定度を測定するための第1の選択肢です。周波数ループ応答では、小信号AC解析を使用します。小さな正弦波信号をループに注入して、開ループにて広い周波数範囲で利得と位相を測定します。

この場合、測定した利得と位相の周波数変化をボード線図に表示して、ゲインマージン、位相マージン、クロスオーバー周波数を直接読み取ります。負荷ステップ応答テストでは、大電流ステップを印加してから、電圧応答を測定/解析する必要があります。

図1:ステップダウンコンバーターの負荷過渡テストセットアップ
図1:ステップダウンコンバーターの負荷過渡テストセットアップ
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大信号測定は閉ループで実行します。これは開ループシステムとはかなり異なります。出力電圧をタイムドメインで解析して、コンバーターの安定度を予測し判断する必要があります。図1の例は、ステップダウンコンバーターを使用して負荷過渡応答をテストするものです。

負荷電流を急速に変化させる場合には、負荷ステップ発生器をコンバーターの出力端子に接続することが不可欠です。PWM信号が制御ループの発電部分を制御します。そのため、負荷ステップの印加中に正のデューティーサイクルを測定すれば、未知の効果を可視化するときに負荷過渡応答を増強することができます。

この測定には、記録時間全体にわたって高いサンプリングレートで正のデューティーサイクルを測定できる測定器が必要になります。サイクルごとの測定を波形対時間として表示する必要があります。

図2:負荷過渡応答
図2:負荷過渡応答
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ローデ・シュワルツのソリューション

R&S®MXO 5 オシロスコープは、PWMスイッチング周波数が高い場合でも長い記録時間にわたって正のデューティーサイクルを測定することができるので、このような難しい作業に最適です。十分な帯域幅、高いサンプリングレート、大容量メモリのすべてが必要になります。収集されたすべての正のデューティーサイクルを使用して、トラックの収集期間全体にわたる変化を可視化することができます。1サイクルの測定ごとのトラックを時間軸上に表示することができます。トラック波形に含まれる一般的な負荷過渡波形を図2に示します。

図2には、3つの連続した負荷ステップの標準的な出力電圧と出力電流の波形が表示されています。コントローラー出力の正のデューティーサイクルも表示されています。これは、トラックを構成するために使用されるものです。理論的には、デューティーサイクルが発電部をレギュレートして一定の出力電圧を維持するので、トラック波形は出力電圧波形を反映しています。

アプリケーション

同期整流機能を備えたフルブリッジ回路のDC/DCスイッチングコンバーターで、トラック機能を実現しています。絶縁されたコンバーターは100 kHzのスイッチング周波数で動作して、48 Vの入力電圧を12 Vの出力電圧に変換します。出力電流は最大8 Aに設定され、電子負荷を用いて出力負荷ステップが出力されます。

デバイス設定

正のデューティーサイクルをトラック波形として可視化するためには、コンバーター出力にて負荷ステップを印加する前に、いくつかの作業を事前に完了しておく必要があります。

  • チャネルをセットアップしてプローブを選択します。
  • コントローラー出力にて負荷ステップイベントを捕捉するためのトリガを定義します。
  • 正のデューティーサイクル測定機能を有効化し、基準電圧のパーセントレベル(20 %、50 %、80 %)を設定します。
  • エッジが急峻なPWM信号を正確に測定するために、十分なサンプリングレート(≧100 Mサンプル/秒)を設定する必要があります。
  • シーケンス全体(ローからハイ、次のハイからローを含む1つ以上の電流ステップ)を捕捉するのに十分な記録長が必要です。
  • 測定サブメニューの中でトラック機能を有効化して、表示スケールを最適化します。

過渡負荷の測定

セットアップを完了した後、電子負荷を設定して、低電流値(最大負荷の20 %)と高電流値(最大負荷の80 %)の間で変化する負荷ステップを印加します。トリガが有効なトリガ条件を検出するとすぐに、画面上に波形が表示されます(図3参照)。上部のウィンドウに表示されているのは、収集された2つの両方向の負荷ステップです。出力電圧はチャネル1で測定し、出力電流はチャネル2で測定しています。PWM制御信号(チャネル3)と正のデューティーサイクルのトラック波形も表示されています。

ズームウィンドウの表示により、定常状態動作に再度入る前の出力電圧降下はわずか300 μs程度であることがわかります。カーソル機能による測定では、定常状態での20 %負荷と80 %負荷の間の差はわずか2.4 mVです。コンバーターが定常状態に入った後、トラック波形には異なるレベル(24 %ではなく26 %)が表示されます。この差により効果が明らかになり、図2に記載されている予測値に合わないことがわかります。定義と理論に従うと、デューティーサイクルは負荷電流の影響を受けないはずです。

制御理論を吟味すると、2 %の差は、高い出力電流により生じた高い伝導損失が原因であることがわかります。高い損失は主に、変圧器と出力整流器で発生しています。正のデューティーサイクルを大きくして追加損失を等価にする必要があります。トラック機能を使用すれば、この複雑な測定作業を実行することができます。

まとめ

システムの詳細な動作を明らかにするために詳細な解析が求められる場合、R&S®MXO 5 オシロスコープは、PWM制御式のあらゆるパワーコンバーターの負荷過渡現象を検証するのに最適です。大容量メモリストレージやトラック機能などの優れた機能は、ユーザーがコンバーター動作の詳細を観測して理解するために役立ちます。

図3:ステップダウンコンバーターの負荷過渡テストセットアップ
図3:ステップダウンコンバーターの負荷過渡テストセットアップ