レンジゲート・プルオフ・ジャミングの2チャネル測定

R&S®RTP ハイパフォーマンス・オシロスコープとR&S®VSE-K6A フェーズドアレイ測定オプションを使用

ジャマーは、ジャミングカバーパルスのパワーを徐々に上げて、AGCを捕捉します。
ジャマーは、ジャミングカバーパルスのパワーを徐々に上げて、AGCを捕捉します。
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課題

電子対抗手段としてのジャミング(妨害)は、標的となるレーダー波に対するジャマー(妨害電波発生装置)のパワー比を大きくすることで機能します。欺瞞ジャミングは、次のようなプロセスを用いて、標的となるレーダーに対するジャミング対信号比(J/S)を少しずつ大きくして無限大にする改良型の方式です。まず、標的となるレーダーで測定されたターゲット反射に対するジャミングパルスのパワーを徐々に上げることにより、標的となるレーダーのレンジ(距離)とベロシティ(速度)ゲートのどちらかまたは両方を捕捉します。これにより、レーダーは、自動利得制御(AGC)をジャミングパルス(カバーパルスとも呼ばれる)のパワーレベルに合わせます。

ジャマーがカバーパルスの遅延を大きくしてレーダーを後ろのレンジゲートに引き寄せると、J/Sが無限大になります。
ジャマーがカバーパルスの遅延を大きくしてレーダーを後ろのレンジゲートに引き寄せると、J/Sが無限大になります。
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AGCを捕捉すると、ジャマーはジャミング機(電子戦機)のレンジとベロシティ(ドップラー)と異なるように、ジャミングパルスの周波数と遅延を変更し始めます。標的となるレーダーがジャミング機のレンジゲートとベロシティゲートから「ウォークオフ(分離/ずれ)」されると、標的となるレーダーはもはやジャミング機からのターゲット反射を測定しなくなるため、J/Sは無限大になります。このことは、Filippo Neri氏1)が導き出した、コヒーレントレーダーに対する自己防御/妨害のための欺瞞ジャミングのJ/Sの方程式で表されます。

コヒーレントレーダーに対する自己防御/妨害のための欺瞞ジャミングのJ/Sの方程式

ここで、PjおよびGjはジャマーのパワーと利得、Pt,rおよびGrは標的となるレーダーの送信パワーと利得、σはジャミング機のレーダー断面積(RCS)、Rはジャマーと標的となるレーダーの距離を表します。標的となるレーダーがジャミング機以外のレンジ(ドップラー)ゲートに引っ張られると、RCSがゼロになり、式の分母がゼロになってJ/Sは無限大になります。

RFにおける欺瞞ジャミング手法を検証するには、パワーと時間の両方に対応する2チャネル測定レシーバーが必要です。1つ目のチャネルは、通常テスト中に信号発生器によってシミュレートされる標的となるレーダーを測定します。2つ目のチャネルは、ジャミング手法を測定します。両方のチャネルの相互相関測定により、J/Sが達成される時や無限大になる時がわかります。

テストセットアップ
テストセットアップ
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ローデ・シュワルツのソリューション

オシロスコープは、2チャネル比較測定に最適なレシーバーであり、時間測定のゴールドスタンダードです。テストセットアップは、標的となるレーダーをシミュレートし、ジャミング応答をジャマーに注入するためのR&S®SMW200A ベクトル信号発生器と、標的となるレーダーとジャミング応答を測定し比較するためのR&S®RTP ハイパフォーマンス・オシロスコープで構成されます。測定には、オシロスコープのアプリケーションと、R&S®VSE-K6A フェーズドアレイ測定オプションを実行するR&S®VSE ベクトル信号解析ソフトウェアを使用します。

オシロスコープを用いたRGPO測定:相関関数によるジャミング手法と標的となるレーダーの間の遅延の測定。遅延がジャミング機のレンジビンを超えると、J/Sは無限大になります。
オシロスコープを用いたRGPO測定:相関関数によるジャミング手法と標的となるレーダーの間の遅延の測定。遅延がジャミング機のレンジビンを超えると、J/Sは無限大になります。
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オシロスコープの基本アプリケーションを使用してレンジゲート・プルオフ(RGPO)を測定するには、標的となるレーダーの最初のパルスで両方のチャネルをトリガします。オシロスコープのタイムベースを長くして、プルオフの全範囲を含めます。言い換えると、標的となるレーダーに対する全プルオフが50 µsの場合は、50 µsがタイムベースになります。後でヒストリーで確認できるだけの十分なセグメントを備えた、高速セグメント化機能を使用して捕捉します。クロスチャネル相互相関測定の追加により、それぞれの瞬間の各パルス間の時間オフセットを正確に特定できます。

RFパルスは、R&S®VSE-K6A フェーズドアレイ測定オプションを搭載したR&S®VSE ベクトル信号解析ソフトウェアでも測定できます。このソフトウェアとオプションは、パルス幅、パルス振幅、パルス繰り返し間隔、パルス周波数などのパルス測定機能を内蔵しています。これらの測定は、オシロスコープの基本アプリケーションでは設定できません。RGPO測定のように、2つのRFチャネルを一度に測定する場合は、R&S®VSE-K6Aオプションを用いることにより、電子戦(EW)エンジニアは、ジャミング手法の測定を自動化し、正確な相対タイミングと振幅を確認することができます。

RGPOを測定するには、R&S®VSEのパルス測定チャネルを起動し、R&S®RTP ハイパフォーマンス・オシロスコープに接続します。まず、標的となるレーダーのパルスでのトリガを設定します。トリガメニューで、R&S®VSEトリガを "Manual" に設定します。

R&S®VSE測定器のウィンドウの "Info & Settings" の "Display Update" がオンになっていることを確認します。

オシロスコープのフロントパネルまたはブラウザーのVPN接続の "Local" を押します。

オシロスコープのフロントパネルまたはブラウザーのVPN接続の "Local" を押します。

オシロスコープで、標的となるレーダーを測定するオシロスコープチャネルにエッジトリガを設定します。

オシロスコープで、標的となるレーダーを測定するオシロスコープチャネルにエッジトリガを設定します。この例ではチャネル1を使用します。ノイズによって測定のトリガが妨げられないように、トリガレベルがオシロスコープのノイズフロアより十分上に設定されていることを確認します。

標的となるレーダーのパルスよりわずかに長いエッジトリガにホールドオフを追加します。

標的となるレーダーのパルスよりわずかに長いエッジトリガにホールドオフを追加します。この場合、標的となるレーダーのパルス幅は10 µsです。最後に、すべてのトリガ条件が満たされた場合、測定器が1つの波形または一連の波形セグメントを捕捉するように、トリガモードを "Normal" に設定します。

R&S®VSEに戻り、データ収集フィルターとサンプリングレートを設定します。パルスパワーと変調を測定する場合は、ガウシアンフィルターではなく、フラット収集フィルターを使用します。これは、パルスはすでにセルフウィンドウ法(高速対象追跡アルゴリズム)で処理されており、ガウシアンフィルターでは変調スペクトラムに歪みが生じるためです。これは、"Meas Setup" ▷ "Data Acquisition" ▷ "Filter Type" で設定します。パルスの変調を測定する場合は、サンプリングレートを変調帯域幅に合わせます。測定帯域幅を拡大すると、雑音帯域幅も広がり、測定のS/N比が低下することに注意してください。これを改善するには、信号パワーを上げます。

トリガ - セグメント捕捉

次に、セグメント捕捉を設定します。オシロスコープの基本アプリケーションと同様に、セグメントを標的となるレーダーのトリガパルスに対するウォークオフ全体を捕捉できるだけの長さにします。

表示を設定する

次に、表示を設定します。パルス振幅表示をクリックし、基準点が "Rise"、結果レンジが "Rise"、長さが50 µs(セグメント長)になるように、結果レンジを設定します。

チャネル3を使用して、2番目のトレースを "Pulse Magnitude" に追加します。

ダイアログを閉じ、チャネル3を使用して、2番目のトレースを "Pulse Magnitude"に追加します。これにより、セグメント全体が表示され、標的となるレーダーのパルスに対するジャマーのパルスの「ウォークオフ」を確認することができます。

パルス結果テーブルをクリックして、"Table Config" タブで設定します。

次に、パルス結果テーブルをクリックして、"Table Config" タブで設定します。標的となるレーダーのパルスとジャミングパルスの間の時間差がパルス結果テーブルに表示され、以下の手順で後処理できるように、"Timing" 列をオンにします。

例では、オシロスコープチャネル1と3のセグメント52が示されています。パルス振幅表示(下)には、標的となるレーダーのパルス(黄色)とジャミングパルス(青色)が示されています。

最後のステップでは、"Capture" ボタンをクリックして、標的となるレーダーがセグメントを捕捉するためにオシロスコープをトリガするのを待ちます。

捕捉後は、以下に示すパルス測定に捕捉されたセグメントが表示されます。各セグメントを表示するには、パルス結果テーブル(右上)をスクロールします。例では、オシロスコープチャネル1と3のセグメント52が示されています。パルス振幅表示(下)には、標的となるレーダーのパルス(黄色)とジャミングパルス(青色)が示されています。ジャミングパルスは、標的となるレーダーよりもパワーが大きく、遅れています。

RGPO測定は自動化可能

RGPO測定を自動化するには、データをスプレッドシートにエクスポートし、Visual Basicサブルーチンを実行して、チャネル1と3のパルス間のタイムスタンプまたはパルス振幅の差を計算します。

計算結果は、"RGPO" 列に表示されます。

計算結果は、"RGPO" 列に表示されます。同じコードを使用して、標的となるレーダーとジャマーの振幅差または周波数差を計算することができます。

まとめ

R&S®VSE-K6A フェーズドアレイ測定アプリケーションは、マルチチャネルRFパルス測定機能を内蔵し、R&S®RTP ハイパフォーマンス・オシロスコープを使用した最大16 GHzまでの測定に対応します。レンジゲート・プルオフなどの欺瞞ジャミング手法の解析や、ジャマーテストの自動化に威力を発揮する強力なツールです。

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