妥協のない制御ループ設計において不規則なイベントを検出

パワーコンバーターでは、あらゆる状況で安定した動作が不可欠です。ほとんどの種類のコンバーターに、負荷ステップ、起動/シャットダウンシーケンス、入力電圧の変化などのさまざまな動作状況が当てはまります。標準フィードバック制御ループに加えて、パルス幅変調器(PWM)コントローラーが電源フィードフォワードループ制御やソフトスタート制御などの拡張機能を提供しています。これらの拡張制御機能により、特定の条件に対するレギュレーションが向上します。そのような複雑なレギュレーションシステムには、あらゆるモードでコンバーターが適切に動作するようにするための高度な手法が求められます。この作業には、システム内で想定外のイベントが起きる原因と位置を特定するための広範な専門知識と適切な測定ツールが不可欠です。

R&S®MXO 5シリーズ オシロスコープ
R&S®MXO 5シリーズ オシロスコープ

課題

パワーコンバーターの設計と安定性は、あらゆる動作モードで検証する必要があります。一般的に、PWMコントローラーが複数の機能を実現しています。そのために複雑さが増して、高度な検証プロセスが必要になる場合があります。例としては、電源フィードフォワードループ制御やソフトスタート制御があります。

ソフトスタート制御は、コンバーターの起動時に正のデューティーサイクルを徐々に拡大して出力電圧を滑らかに上昇させる特定のモードです。

この期間中、出力電圧が定常状態になるまで、デューティーサイクルは非常に低い値から高い値へと変化します。シーケンスが完了すると、標準制御フィードバックループが出力電圧をターゲット値までレギュレートします。さらに、入力電圧が急速に変化するときに出力電圧のレギュレーションを最適化するために、電源フィードフォワードループがオンになる場合があります。両方の制御機構が共存するために、想定外の動作や不安定な動作を検出したり特定したりすることが困難になります。スイッチコンバーターの設計には当然のことながらノイズが存在するので、これがループの不適切なレギュレーションの原因になる場合があります。突発的で不安定なループは、電圧の変化にトリガすることで検出することができます。あるいは、正のデューティーサイクル幅を監視すればより適切に検出できます。なぜならば、一定の出力電圧を維持するために、発電部のレギュレートにデューティーサイクルが使用されているからです。このような複雑な制御システムで不規則なイベントを検出するためには、複雑なトリガ機能が必須です。

図1:不規則な効果を検出するための複雑なトリガ定義
図1:不規則な効果を検出するための複雑なトリガ定義
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ローデ・シュワルツのソリューション

R&S®MXO 5 オシロスコープはデジタルトリガテクノロジーを基盤にしているので、このような困難な作業に最適です。デジタルトリガは、0.0001/divという高感度トリガと、最大18ビットの分解能(高分解能モード)を実現します。ソフトスタート期間を経た後で正のデューティーサイクルの変化を検出するためには、2つのトリガ条件が必要です。これに対応するために、複雑なトリガ条件を定義することもできます。図1に、コンバーター起動時のトリガ条件を示します。

トリガ条件Aは、ソフトスタート上昇の終了を検出するために使用されます。これはウィンドウトリガとして設定されるもので、出力電圧は定義範囲内である必要があります。条件Bのトリガタイプは幅にする必要があります。

幅トリガは、定義された範囲の正のデューティーサイクルから外れたあらゆる値を検出します。範囲外の値は、電源フィードフォワード制御フィルターの設計が不適切だと発生しやすい可能性があります。しかし、コンバーターに定常状態があれば、重大なデューティーサイクルの変化が発生することはありません。何らかの想定外のイベントにより正のデューティーサイクルが有効な範囲から外れると、条件Bによるトリガが発生して、収集は停止されます。これは特定のイベントを切り分けるために役立ち、ユーザーは、このような不規則な制御イベントが発生した根本原因を発見することができます。

図2:トリガシーケンスウィンドウ
図2:トリガシーケンスウィンドウ
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アプリケーション

同期整流機能を備えたフルブリッジ回路のDC/DCスイッチングコンバーターで、複雑なトリガ機能を実現しています。絶縁されたコンバーターは100 kHzのスイッチング周波数で動作して、48 Vの入力電圧を12 Vの出力電圧に変換します。出力電流は、最大8 Aになるように仕様化されています。このアプリケーションではデジタルコントローラーを使用して、電源フィードフォワード制御のオン、オフ、変更を行うことができます。

図3:トリガイベントBウィンドウ
図3:トリガイベントAウィンドウ
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デバイス設定

  • 複雑なトリガを設定する手順:
  • 適切なチャネルをセットアップします。プローブの選択も適切に行います
  • トリガシーケンスをオンにし、適切なリセットタイムアウトを定義します(図2参照)
  • 起動時にソフトスタートの終了を捕捉するために、トリガAをウィンドウタイプにして上限/下限レベルを設定します(図3参照)
  • 正のデューティーサイクル測定機能をオンにして、基準レベル(例:20/50/80 %)を設定します
  • トリガBを幅タイプにして、幅とデルタ時間を設定します(図4参照)
  • トラック機能を含むデューティーサイクル測定機能をオンにします。
図4:トリガイベントBウィンドウ
図4:トリガイベントBウィンドウ
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図5:コンバーターの起動と不規則な制御の効果
図5:コンバーターの起動と不規則な制御の効果
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負荷過渡現象の測定

セットアップの完了後、コンバーターを起動してソフトスタートプロシージャを実行します。条件Aの有効なトリガが検出されるとすぐに、測定器はデューティーサイクル測定の変化を待ちます。ソフトスタート終了後は負荷が一定であると仮定すればデューティーサイクルは一定のはずなので、測定器は条件Bではトリガを出力しません。

この複雑なトリガシーケンスを示すために、不適切な設計のデジタルフィルターを備えたコンバーターでコントローラー内部の電源フィードフォワード機能をオンにしました。その結果、測定器は条件Bでもトリガを出力しました。記録された測定結果を図5に示します。出力電圧の測定はチャネル1で、入力電圧の測定はチャネル3で実行しています。チャネル2にはコントローラーの内部信号が表示されています。これは、2次側の入力電圧を反映しています。M2チャネルには、ローパスフィルター通過後のチャネル2が表示されています。さらに、PWM制御信号(チャネル4)と正のデューティーサイクルのトラック波形も下のウィンドウに表示されています。

図6:トリガ条件Bでの不規則な制御の効果
図6:トリガ条件Bでの不規則な制御の効果
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ソフトスタートシーケンスを経た3 ms後に測定器が条件Bでトリガを出力した原因は、デューティーサイクルの正のステップ後に負のステップが発生したことです。デューティーサイクルの変化は、電源フィードフォワードがオンのときだけ発生しています。次のステップでは、収集の長さを最適化します。これは、複雑なトリガシーケンスにより可能になった機能です。図6に結果を示します。

このケースでは、確度の向上により非常に詳細な部分が表示されようになり、ユーザーはシステムをさらに理解することができるようになります。このように、ユーザーがプロセスを開始すれば、根本原因を非常に効率的に発見することができます。

まとめ

R&S®MXO 5 オシロスコープは、パワーコンバーターの制御ループで不規則なイベントを特定するために最適です。デジタルトリガテクノロジーにより、ユーザーは、複雑なトリガイベントを定義して根本原因を効率的に切り分けることができます。さらに、大容量メモリにより、長時間の収集中に高いサンプリングレートを必要とするデューティーサイクルのトラックなどの補足機能を追加することができます。本測定器の機能は、パワーコンバーター設計の動作を検証して理解するために最適です。