車車間フェージング条件での再現性のあるレシーバーテスト

車車間通信シナリオでは、フェージングが常に存在し、受信信号に大きな影響を与えます。R&S®SMW200A ベクトル信号発生器を使用すれば、車車間フェージング条件で非常に正確で再現性のあるレシーバーテストを行えます。必要な車車間無線チャネルモデルは、実際のフィールド試験から抽出され、CAR 2 CAR Communication Consortiumによって仕様化されています。ラボでの制御された条件でレシーバーの性能を検証できるようにないりました。

代表的な車車間通信シナリオ
代表的な車車間通信シナリオ
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はじめに

車車間通信シナリオでは、車は情報や警告メッセージを互いに無線で共有します。情報が電波に乗って送られるだけで、フィードバックはありません。現在のところ、車両間の通信リンクを確立するための有力な候補は、IEEE 802.11p WLAN規格です。レーダーセンサ、カメラ、タコメータなどの定評のある車載センサはすでに、周辺環境までの距離や速度に関する情報を提供しています。情報を共有することにより、衝突などの重大な交通状況を検出できます。次に、事故を回避したり、交通の流れを良くするための対策に着手できるように、車はメッセージを表示してドライバーに警告します。これにより、負傷者数、物的損害、渋滞を大幅に低減できます。

課題

車車間通信システムの情報の処理能力を最大限に高めるためには、安定した無線リンクが必要で、これによりドライバーの安全性が向上します。安定した無線リンクを確保するためには、レシーバーは、S/N比(SNR)が低い、エラーベクトル振幅(EVM)が悪化している、フェージングが激しいなどの最悪の条件でも、IEEE 802.11pなどの信号を検出できなければなりません。車車間通信シナリオでは、レシーバーとトランスミッター間の相対的な移動によって生じるレイリーフェージングが、レシーバーの性能を低下させる主な原因です。一般に、フェージングは送信信号のマルチパス伝搬に起因します。受信信号は、複数の経路を通って伝搬するすべての信号の和です。各経路は、信号の振幅、位相、ドップラーシフト、時間遅延に影響を及ぼす可能性があります。エンジニアがラボで直面する最大の課題は、車車間通信シナリオのマルチパス伝搬を最もよく特徴付けたフェージングモデルに信号を適用することです。そうすることによって初めて、ラボでの開発/検証サイクル中にレシーバーを適切にテストして、車車間フェージング条件でどの程度信号を検出できるかを確認できます。

電子計測ソリューション

R&S®SMW-B14 フェージングシミュレータとR&S®SMW-K72 拡張フェージングモデル・オプションを搭載したR&S®SMW200A ベクトル信号発生器は、最も正確で再現性のあるレシーバー・テスト・ケースを作成するために、IEEE 802.11pなどの信号に車車間フェージング条件を適用するのに最適です。R&S®SMW-K72 拡張フェージングモデル・オプションは、CAR 2 CAR コンソーシアム

コンソーシアムが仕様化した車車間無線チャネルモデルをすべてサポートしています。

  • ルーラル見通し内
  • アーバン接近中見通し内
  • 道路交差点見通し外
  • ハイウェイ見通し内
  • ハイウェイ見通し外

例として、ルーラル見通し内無線チャネルモデルについて詳細に説明します。

ルーラル無線チャネルモデル

以下に示すルーラル見通し内シナリオの場合など、さまざまな車車間無線チャネルの統計モデルを決定するために、さまざまな大学や企業が独自にフィールド試験を実施しています。

ルーラル見通し内シナリオ
ルーラル見通し内シナリオ

ルーラル見通し内シナリオは、建物、大きな物体、他の車両がない広く開けた環境です。CAR 2 CAR Communication Consortiumがルーラル見通し内無線チャネルモデルに対して指定している構成を下表に示します。

ルーラル見通し内の構成
パラメータ 経路1 経路2 経路3
経路損失 0 dB 14 dB 17 dB
遅延 0 ns 83 ns 183 ns
ドップラー 0 Hz 492 Hz -295 Hz
プロファイル 静的 レイリーの半分 レイリーの半分

この構成は、3つの経路をベースにしています。各経路には、指定された経路損失、遅延、ドップラー周波数fd、ドップラースペクトラムの分布プロファイルが含まれます。CAR 2 CAR Communication Consortiumは、車車間無線チャネルモデル用のフル・レイリー・ドップラー・スペクトラムよりも分布スペクトラムが適しているとして、従来のレイリー・ドップラー・スペクトラムのちょうど半分を定義しました。以下に、ルーラル見通し内シナリオの経路2のレイリー・ドップラー・スペクトラムの正の半分の代表的な分布プロファイルを示します。

ノーマライズされたレイリー・ドップラー・スペクトラム
ノーマライズされたレイリー・ドップラー・スペクトラム

R&S®SMW200A ベクトル信号発生器は高度なフェージング機能を備えているため、エンジニアは、車車間通信シナリオのレシーバーテストのあらゆる段階で、R&S®SMW-K72 拡張フェージングモデル・オプションを活用できます。5つの車車間無線チャネルモデルはすべて、IEEE 802.11pなどの信号に簡単に適用できます。ユーザーは、車車間無線チャネルモデルの定義/実装に貴重な時間を費やすことなく、レシーバーテストだけに集中できます。このため、実環境の車車間通信シナリオをラボ条件で非常に簡単にシミュレートできます。実環境の車車間フェージング条件でレシーバー・テスト・ケースを作成することが、これまで以上に簡単になります。

主な利点

  • 5つの車車間無線チャネルモデルをすべてサポート
  • 実環境の車車間無線チャネルをラボで再現
  • 車車間通信シナリオの制御されたフェージング条件で、再現性のあるレシーバー・テスト・ケースを作成することが可能
  • 車車間フェージング条件での信号発生を簡素化
  • エンジニアはレシーバーテストだけに集中可能