パルス幅変調信号の解析

ローデ・シュワルツのオシロスコープ

パルス幅変調信号の解析 - RTM3004

課題

パルス幅変調(PWM)は、スイッチングモード電源を固定周波数で効率的にドライブするための一般的な方法です。この技法は、産業用制御システム、パワーエレクトロニクス、デジタル通信分野のさまざまな種類の電源に用いられます。このため、PWMはD/Aコンバーターをデザインする際に特に広く用いられる技法です。例えば、クラスDオーディオアンプ、DC/DC電源/インバーター、DCモーターの可変周波数ドライブ(VFD)、3相モータードライブなどです。特に、ブリッジやマルチフェーズ・モーター・ドライブの差信号は、バイポーラー・ダブル・パルス特性を示し、開発とテストに携わるエンジニアにとって課題となっています。

立ち下がりパルスに対する幅トリガによって捕捉したバイポーラーPWM信号
立ち下がりパルスに対する幅トリガによって捕捉したバイポーラーPWM信号(虹色の波形カラーによる表示、赤は高い発生頻度を表す)

ローデ・シュワルツのソリューション

PWM信号の概要を短時間で簡単に知る方法としては、オシロスコープの残光表示機能があります。残光表示を使用することで、信号内にどのような種類のパルス幅が存在するかを大まかに把握することができます。さらに、カラー階調によって、波形のアクティビティが最も多い場所がわかります。
ただし、残光表示とカラー階調からは、解析情報は得られません。幅だけでなく周期も変調されているのか?変調サイクルはどれだけの頻度で繰り返されているか?それぞれの値の幅は何回発生しているか?こういった情報は、電源、プロセッサの電源電圧、バッテリー充電器に用いられる降圧コンバーターなどのさまざまな電子モジュールの開発に不可欠です。
こういった情報を得るには、もっと情報量の多い解析方法を使用する必要があります。
R&S®RTM3000およびR&S®RTA4000 オシロスコープのトラッキング機能を使用すると、PWM信号を復調し、元の変調信号をトラッキング波形の形で取り出すことができます。トラッキング波形は、収集時に記録された時間的順序の測定値から構成されます。この解析ツールでは、結果を任意の値対時間の形でプロットすることで、比較的長時間の測定中にPWMパラメータがどのように変化するかを明確に観察できます。これにより、PWMレギュレーター/コントローラーのトラッキングの精度とリニアリティーを評価できます。
R&S®RTM3000およびR&S®RTA4000のトラッキング機能の演算に組み込まれた標準を使用すると、復調信号の上限(ユニポーラー)および下限(バイポーラー)のしきい値を定義できます。

演算には、以下のトラッキング解析が標準として含まれます。

  • トラッキング:周期(ユニポーラー/バイポーラー)
  • トラッキング:周波数(ユニポーラー/バイポーラー)
  • トラッキング:パルス幅(ユニポーラー/バイポーラー)
  • トラッキング:デューティーサイクル(ユニポーラー/バイポーラー)
サンプル復調タイプによりアプリケーションに適した復調を容易に選択可能
サンプル復調タイプによりアプリケーションに適した復調を容易に選択可能

測定セットアップ

正確なPWM測定には、正しいプローブ接続が必要です。ほとんどのオシロスコープには、通常10:1のパッシブプローブが付属しています。これらのプローブではあいまいさが生じ、意味のあるグランド基準ポイントを発見できないことがあります。例えば、グランドに接続されていない2つの信号の間の差を測定する場合です。このような測定には、R&S®RT-ZD10などの差動プローブの使用が推奨されます。アプリケーションと環境によっては、電圧が大幅に変動し、kVレンジにまで達することがあります。R&S®RT-ZHD プローブは、最高6 kVの電圧に対応するように設計されているため、このような環境に最適です。

トラッキング機能の操作メニュー
トラッキング機能の操作メニュー

本機のセットアップ

オシロスコープを被試験回路に接続したら、オシロスコープのアプリケーションダイアログを使用して、トラッキングタブにアクセスします。ここにはさまざまな復調タイプが含まれています。

  • さまざまなPWM技法には、それぞれ異なる復調タイプの式が必要です。
    • PWM(ユニポーラー/バイポーラー)、PDM(ユニポーラー/バイポーラー)、インバーター、DCモーター、3相モーター、PWM – RGB LEDのいずれかを選択します(左下のスクリーンショットを参照)。
  • 選択した復調タイプに応じて、トリガ条件と極性が設定されます。演算メニューで、その他のユーザー調整を行うことができます。
  • ユーザー設定には、周期、周波数、パルス幅、またはデューティーサイクルのトラッキングなどの変調解析が含まれます。
  • ユニポーラートレースの上限しきい値(UL)とバイポーラートレースの下限しきい値(LL)を設定します。
  • 各しきい値は、レベルとヒステリシス設定から構成されます。これらをニーズに合わせて調整します。
    • 立ち上がりエッジと立ち下がりエッジを選択でき、周波数と周期に対して「オンエッジ」、「オフエッジ」、および「オン」、「オフ・ダブル・パルス」を設定できます。
降圧コンバーターのユニポーラーPWM信号の復調と、C1スイッチングモード、C2出力の測定
降圧コンバーターのユニポーラーPWM信号の復調と、C1スイッチングモード、C2出力の測定

測定結果

演算メニューのトラッキング機能を使用すると、PWM信号を復調できます。また、波形を演算トレースとして表示できます。これにより、最大5つのトラッキング曲線を同時に表示できます。
抽出したトラッキング波形に基づいて、さらに解析を実行できます。R&S®RTM3000およびR&S®RTA4000のトラッキング機能では、各カーソルセットをトラッキング波形上に配置して、使用可能なすべての演算オプションを適用できます。また、RMSや周波数(回転周波数に関する情報を取得)など、使用可能なすべての測定をトラッキング波形に対して実行し、各測定の統計的評価を表示できます。
測定および解析ステップを実行した後、例えば、変調サイクルが何回繰り返されるか、あるいはそれぞれの値の幅が何回発生するかといった詳細情報を取得できます。そのような情報を利用して、制御アルゴリズムのエラーを発見したり、コントローラーの動作を調べたり、起動/シャットダウン時の動作を観察したりできます。これにより、PWM信号で実際に何が起きているかを詳細に把握できます。
レポートを作成する場合には、スクリーンショット、波形、統計、またはセットアップ全体を、容易にUSBデバイスに保存したり、LAN経由でPCに転送したりできます。

バイポーラーPWM信号の復調と、測定、統計、カーソル
バイポーラーPWM信号の復調と、測定、統計、カーソル

まとめ

R&S®RTM3000およびR&S®RTA4000 オシロスコープのトラッキング機能は、PWM信号の時間変動を観察するのに最適であり、さまざまなアプリケーションに利用できます。

この機能により、PWM信号の各信号サイクルに関する詳細情報を取得して、予期しない異常を発見することができます。その他の測定機能、10ビットのADC、大容量メモリ、セグメントメモリとの組み合わせにより、R&S®RTM3000およびR&S®RTA4000は、コストパフォーマンスが高く、時間節約に役立つソリューションを実現します。どちらの測定器も、D/Aコンバーター、DC/DC電源、インバーターのデザイン(DCモーターおよび3相モータードライブのVFDなど)に柔軟性をもたらします。

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