Application Notes

変圧器のカスタマイズ設計には強力なLCRブリッジが必要

絶縁型スイッチング電源(SMPS)を設計する場合、高周波変圧器は重要な構成要素となります。リーケージインダクタンスは、カスタマイズされた変圧器を使用する設計の場合、効率、スイッチング素子の最大定格電圧、EMIを含む多くの設計パラメータの制御に不可欠です。この寄生成分の正確な測定は必須です。R&S®LCX LCRメータは、この困難な測定タスクに最適です。

課題

SMPSの変圧器から発生するリーケージインダクタンスの影響は、いくつかの要因によって異なります。より大きな励磁インダクタンスを取得できるように変圧器を設計すると、特に一次巻線と二次巻線との間に絶縁が必要なときに、リーケージインダクタンスが増加する傾向があります。このリーケージインダクタンスは電力損失の原因となり、特にコンバーターのスイッチング周波数が高い場合には、EMIエミッションに影響を与えることがあります。

変圧器がフライバックコンバーターで動作するように設計されているときに、駆動トランジスタがオフになる場合、主コンバータースイッチはリーケージインダクタンスによる電圧キックバックに対して敏感になります。リーケージインダクタンスに蓄えられたエネルギーに起因して、スイッチングデバイスの電圧を制限するためのスナバ回路が必要になります。スナバ回路を最適に設計するためには、設計プロセスで一次側変圧器のリーケージインダクタンスを正確に測定することが重要です。これにより、主スイッチング素子の十分な保護だけはなく、損失の低減やEMI問題の軽減を実現できます。

リーケージインダクタンス以外にも、励磁インダクタンス、巻線キャパシタンス、巻線抵抗などの他のパラメータが関連していて、高品質設計に必要です。

また、寄生する変圧器の測定値から正確なシミュレーションモデルを導出することで、設計プロセスを加速させることができます。

一次インダクタンスとリーケージインダクタンスの測定原理
一次インダクタンスとリーケージインダクタンスの測定原理
ライトボックスを開く

ローデ・シュワルツのソリューション

R&S®LCX LCRメータは、変圧器の重要なパラメータをすべて正確に測定することができます。変圧器のインダクタンス測定には、適切な周波数の正弦波電圧が必要です。必要なテスト周波数は、コンバーターのスイッチング周波数から導出されます。LCRメータは、二次巻線が解放状態のときにAC信号を供給します。これにより、一次インダクタンスLTotalを測定することができます。

測定結果は、励磁インダクタンスLMとリーケージインダクタンスLLが組み合わされたものとなります。一次変圧器のインダクタンスは、コア透磁率と巻数で決まります。また、銅の巻線から直列抵抗素子RSが生じます。この値は、AC信号を印加して測定することもできますし、純粋なDCとして測定することもできます。この値は、銅損失を計算するのに役立ちます。

リーケージインダクタンスは変圧器設計によって規定されるため、直接測定することはできません。リーケージインダクタンスの適切な測定方法では、一次インダクタンスから励磁インダクタンスを除去する必要があります。これは、二次側端子間を短絡することで実現できます。短絡することにより、出力端子はゼロ電圧になり、一次側の励磁インダクタンスもゼロ電圧になります。そして、一次側端子で測定されたインダクタンスが、リーケージインダクタンスとなります。

アプリケーション例

関連パラメータを測定するためにカスタマイズされた設計の変圧器は、フライバック原理を用いて2 Aで5 Vの出力電圧を有するオフライン電力変換器に配置されます。

測定タスク

  • 補正(DUTを接続しない解放/短絡測定)の実行
    • ケーブル配線などの残留パラメータを補正
  • 目的の動作周波数と適切な電圧試験レベルの設定
  • 適切なインピーダンスモードを選択(lowZまたはhighZ)
    • 最高の精度を達成
  • 適切にレンジ設定し、正しいパラメータ構成(LsとRs/LsとRDC)を選択し、DUTを接続して、測定を開始

下のスクリーンショットでは、一次インダクタンスが745.3 μHで、データシートの仕様に適合していることがわかります。

10 kHz、100 mV (RMS)での一次インダクタンス測定
10 kHz、100 mV (RMS)での一次インダクタンス測定

電子計測ソリューション

また、直列抵抗は1.283 Ωを示しています。DC抵抗は、一般的な変圧器のデータシートに明記されており、DCで測定する必要があります。これは、RDCパラメータを選択することにより、LCRメータを用いて測定することもできます。結果としての、DC抵抗は約1.41 Ωです。

下のスクリーンショットでは、リーケージインダクタンスが約6.08 μHで、これもデータシートの仕様内であることを示しています。リーケージインダクタンスを測定した後に、励磁インダクタンスを計算することができます。

LM = LTotal − LL = 745.26 µH – 6.08 µH = 739.2 µH

10 kHz、100 mV (RMS)でのリーケージインダクタンス測定
10 kHz、100 mV (RMS)でのリーケージインダクタンス測定

まとめ

R&S®LCX LCRメータは、強力な機能と高い精度を兼ね備えており、さまざまなスイッチングコンバーターの変圧器設計をサポートする優れた測定器です。ほとんどのコンバーター設計では、リークエネルギーがスナバ回路で消費されるか、共振コンバーターのゼロ電圧スイッチングに再利用されるかにかかわらず、リーケージインダクタンスを制御する必要があります。さまざまな変圧器の寄生を測定できることにより、設計者は非常に正確なシミュレーションモデルを設定することができます。生産ラインでは、リーケージインダクタンスを測定することで、受入検査用にカスタマイズされた変圧器設計の品質を確保することができます。

概要 タイプ オーダー番号
LCRメータ、300 kHz R&S®LCX100 3629.8856.02
LCRメータ、500 kHz R&S®LCX200 3629.8856.03
ケルビンクリップリード R&S®LCX-Z2 3638.6446.02