オシロスコープを使用したレーダーRFパルスの復調

RFパルスの解析は、航空交通管制(ATC)や海上レーダー、電離層の科学的測定などのパルスレーダー・アプリケーションの重要な側面です。アプリケーションを特性評価するための重要な情報を得るには、パルス変調の解析が欠かせません。R&S®RTOおよびR&S®RTP オシロスコープを使用すると、RFパルスの正確なトリガと解析が行えます。このドキュメントでは、さらなる測定のため、R&S®RTOとR&S®RTPを使用してRFパルスを復調する方法について説明します。

課題

レーダーRFパルスが仕様を満たしているかどうか判断するには、周波数、変調方式(リニアアップ/ダウン、指数、位相)チャープレート、変調シーケンス、パルス繰り返し間隔(PRI)、振幅に関する測定が必要となります1)。測定を実行するには、パルスを正しく配置するため、再現可能な方法でパルスにトリガをかける必要があります。トリガをかけると、周波数変調または位相変調されたパルスを復調することができます。
1) Mark A. Richards、2013年、『Fundamentals of Radar Signal Processing(レーダー信号処理の基礎)』、 第2版、McGraw-Hill Companies

複数のRFパルスから成るシーケンス
複数のRFパルスから成るシーケンス

ローデ・シュワルツのソリューション

R&S®RTOおよびR&S®RTP オシロスコープは、最大6 GHz/8 GHzの周波数のRFパルスを解析できます。パルス解析の最も重要な機能は、デジタルトリガです。デジタルトリガは、アナログトリガと比較してトリガ感度がはるかに高く、アドバンスド・トリガ・タイプに対する帯域幅制限がありません。RFパルスを解析するには、トリガが、常にパルスに対して同じ位置に現れる必要があります。例として、パルスの持続時間が25 µs、PRIが50 µsのパルス列を使用します(下のスクリーンショットを参照)。ズームにより、トリガ位置(t=0 s)の3番目のパルスをより詳細に表示します。

この収集には、パルス幅トリガが使用されています。トリガセットアップ(『オシロスコープを使用したレーダーRFパルスのトリガ』 - アプリケーションカード、PD 3609.2000.92 Rohde & Schwarz GmbH & Co. KG)とエンベロープ解析(『オシロスコープを使用したRFレーダーパルスの解析』 - アプリケーションカード、PD 5215.4781.92、Rohde & Schwarz GmbH & Co. KG)については、個別のドキュメントで説明します。変調シーケンスを解析するため、水平スケールを14 µs/divに設定し、3つのパルスを捕捉します。

パルスを復調します。サンプルパルス列は周波数変調されており、復調には、オシロスコープの自動周波数測定の1つを使用します。この測定とトラッキング機能を併用すると、周波数の結果が時間の関数として表示されます。この方法は、車載用レーダーなどの広帯域レーダー信号に適しています。キャリア周波数が占有帯域幅に対して大きい(fC >> fB)ATCレーダーなどの狭帯域信号の場合は、トラッキング機能により、かなり大きなノイズが発生します。このノイズによってチャープレート測定の確度が制限されるため、さらなるノイズリダクションが必要です。

信号のノイズリダクションは簡単ではありません。キャリア周波数が変化するため、単純なバンドパスフィルターは使用できません。フィルター帯域幅をかなり大きくする必要があります。従来のコヒーレント・レーダー・システムでは、1つの安定化局部発振器をRX経路とTX経路で共有しています。オシロスコープの場合、この信号が利用できないため、局部TX発振器を使用したダウンコンバージョンは不可能です。信号を復調するもう1つの方法が、フェーズロックループ(PLL) 1)の利用です。
1) Mark A. Richards、2013年、『Fundamentals of Radar Signal Processing(レーダー信号処理の基礎)』、 第2版、McGraw-Hill Companies

R&S®RTOおよびR&S®RTP オシロスコープには、PLLと同等のソフトウェアベースのクロック・データ・リカバリー(CDR)があります。この自動測定機能を使用すると、データレートは基本的にパルスの瞬間周波数を測定します。データレートのトラッキング機能をオンにした場合、瞬時周波数が経時的に表示されます(最初のスクリーンショットの右側にあるTrack 2を参照)。データレート機能を使用しているため、表示されるトラッキングの垂直軸単位はギガビット/秒(Gbps)です。ビット周期と正弦波周期が同じであるため、これはGHzと等しくなります。

ダイアグラム1(最初のスクリーンショットの上部)の、3パルスのパルス列内に、ダウン-アップ・ダウンチャープの変調シーケンスが表示されています。より詳細な解析のため、ズームウィンドウ内のトラック上のカーソルを使用して、チャープレートを測定することができます。パルスの周波数変化が経時的に測定されます。例のCursor Results 1(最初のスクリーンショットの右下)では、ダウンチャープの場合、25 µs10 MHzと表示されています。

RFチャープを復調するためのCDR設定
RFチャープを復調するためのCDR設定

データレート機能にはCDR設定が必要です。上のスクリーンショットに、CDRメニューを示します。ここでは、アルゴリズムがPLLに設定され、データエッジが正エッジに設定されています。PLLの次数を2次として定義します。2次PLLだけが、データレートに対して周波数の正しいタイムトラッキング 1)を表示します。ビットレート予測を設定すると、公称ビットレートが期待値に設定されます。

減衰係数と同期設定の変更は不要です。帯域幅は、測定の場合にのみ重要です。PLL帯域幅により、可視ノイズと初期パルスのセトリング時間とのトレードオフが可能になります。帯域幅が広いと、セトリング時間は短くなりますが、ノイズが効率的に減衰されません。一方、帯域幅が狭いと、トラック上のノイズを効率的に減衰できますが、セトリング時間が長くなります。現在表示されている3.8 MHzのPLL帯域幅設定では、ノイズはトラック上にほとんど現れません。セトリングの影響も最小限に抑制されます。この結果、チャープレート測定の確度が向上します。

まとめ

R&S®RTOおよびR&S®RTP オシロスコープは、使用モデルの最大帯域幅までRFパルスを解析します。詳細解析を実行する際、R&S®RTOとR&S®RTPが、パルスを正確にトリガします。安定した捕捉波形を復調して、変調シーケンス、チャープレートなどの重要な特性を解析できます。R&S®RTOとR&S®RTPには、パルスエンベロープを正確に特性評価する機能も備わっています(『オシロスコープを使用したRFレーダーパルスの解析』 - アプリケーションカード、PD 5215.4781.92、Rohde & Schwarz GmbH & Co. KG)。