サブTHz周波数でのオンウエハー特性

6G通信/センシングなどの最新のテクノロジーやアプリケーションでは、周波数領域がDバンドやさらにその先のサブTHz周波数にまで広がります。最新の半導体テクノロジーや半導体プロセスは、こうしたことを考慮して商用化する必要があります。

周波数コンバーターを統合したオンウエハーステーションにより、THz周波数での測定が可能。
周波数コンバーターを統合したオンウエハーステーションにより、THz周波数での測定が可能。
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信号伝搬に高い周波数を用いることで生じるあらゆる制約に対して無線性能に関する6G要件を照らし合わせると、ミリ波回路やTHz回路では、パワーと効率性に関するスループットの向上が非常に重要になります。これらのRF回路の性能は、トランジスタやその他のアクティブデバイスの性能による制約を受けます。これらの周波数ではトランジスタの物理的な制約により、利用可能な最大出力パワーが大幅に低下します。このため、周波数が高いアプリケーションでは、半導体部品のRF動作を十分に把握しておくことが必要不可欠です。さまざまな動作条件や広い周波数レンジで新しい半導体デバイスの正確なモデルを作成することが、アプリケーションを使用する上で極めて重要になります。

可能な限り広いダイナミックレンジのミリ波デバイス特性評価が必要な場合は、ベクトル・ネットワーク・アナライザを使ってRF特性評価テストを行う当社のパートナーであるMPI Corporationが提供するウエハーレベルの測定システムが第1の選択肢です。ロードプルを追加することで、新しい半導体部品の詳細な特性評価を行うことができます。

課題

最新の通信規格や通信テクノロジーでは、RFドメインの利用可能な空き周波数域を見つけるため、常に高い周波数レンジが使用されます。次世代のレーダーセンサや6Gなどの将来の無線システムでは、100 GHzを超える周波数域が使用されると見込まれています。これらは、サブTHzレンジとも呼ばれます。これらの周波数域は商用アプリケーションでこれまで使用されていなかったため、新しい半導体テクノロジーを開発し、コスト効率に優れた量産可能な半導体を実現する必要があります。高い周波数レンジでさまざまなアプリケーションを対象に、既存の半導体テクノロジーやまったく新しい半導体テクノロジーの研究や最適化が行われています。これらの周波数レンジを利用できる半導体テクノロジーはすでに存在していますが、コスト面や量産面で解決すべき課題が残っています。
サブTHz領域での半導体テクノロジーのRF能力についての研究が研究者やエンジニアによって進められています。こうした研究では、実証済みの安定した方法がすでに利用されています。これらの方法は、適切なウエハープローバーシステムを用いてウエハーレベルで直接行われます。部品の特性評価では、Sパラメータが広く利用されています。アクティブコンポーネントの完全な特性評価を行うには、ロードプルの手法を使って、デバイスの入力インピーダンスの制御と設定を行う必要があります。

R&S®ZNA ベクトル・ネットワーク・アナライザにR&S®ZC330 ミリ波コンバーターを組み合わせることで、220 GHz~330 GHzの周波数レンジを実現。
R&S®ZNA ベクトル・ネットワーク・アナライザにR&S®ZC330 ミリ波コンバーターを組み合わせることで、220 GHz~330 GHzの周波数レンジを実現。
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ローデ・シュワルツは、MPI CorporationおよびFocus Microwavesと協力して、包括的なサブTHzおよびTHzオンウエハーロードプルシステムを提供

完全なターンキーソリューションを提供するため、ローデ・シュワルツは業界をリードするパートナーであるMPI CorporationおよびFocus Microwavesと協力しています。この3社が主に提供しているノウハウは、以下のとおりです。

  • ローデ・シュワルツ:R&S®ZNA ベクトル・ネットワーク・アナライザを提供
  • Focus Microwaves:ロードプルチューナー、システムソフトウェア、テスト対象のインピーダンス制御機能を提供
  • MPI:先進的なプローブステーションと基本的なハードウェア統合を提供し、シームレスなシステム操作を実現
  • MPI:自動インピーダンスチューナー(AIT)アプリケーションをサポートする専用のプローブシステムプラットフォームで上記測定システムの統合を実現。このシステムには、RFプローブ、校正サブストレート、プローブシステム操作スイートであるSENTIO®(RF校正ソフトウェアQAlibria®を内蔵)が付属

コアテスト機器としてのベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)

このテストセットアップでは、R&S®ZNA ベクトル・ネットワーク・アナライザがRF測定を行うためのコア測定器となります。R&S®ZNA ベクトル・ネットワーク・アナライザは、標準的なSパラメータ特性評価に加えて、利得圧縮、相互変調、群遅延などの、さまざまな専用パワーアンプ(PA)測定やミキサー測定を行うことができます。ベースユニットであるR&S®ZNAは、最大4つのポートで最大67 GHzの周波数をカバーしています。R&S®ZCxxx ミリ波コンバーターを用いると、周波数レンジを最高1.1 THzに拡張し、4ポートアプリケーションの利用が可能になります。周波数コンバーターはR&S®ZNAで完全に制御されるため、手動でも自動でも簡単に使用できます。

3ポート・オンウエハー・テストをMPIプローブステーションとローデ・シュワルツの周波数コンバーターのコンパクトな一体化で実現。(©MPI Corporation)
3ポート・オンウエハー・テストをMPIプローブステーションとローデ・シュワルツの周波数コンバーターのコンパクトな一体化で実現。(©MPI Corporation)
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プローブシステムによるウエハーとの接続

サブTHz周波数でのオンウエハー測定という難しい要件に対応するため、この共同ソリューションでは、MPI Corporationの専用プローブシステムプラットフォームのAITを使用します。これは、測定器の特性、測定確度、シンプルな操作性を損なうことなく、150 mm、200 mm、300 mmのウエハーで測定を行うために開発されたものです。このソリューションは、最大1 THzおよびそれを超える周波数レンジをカバーしており、過熱特性評価にも対応しています。

専用の周波数エクステンダーアダプテーション(FEAD)と独自設計のプローブプラテンにより、エクステンダーポートと被試験デバイス(DUT)の距離を最小限に縮めることができます。フィクスチャで周波数コンバーターをウエハーに近接して配置することで、デバイスへのパワーを最大化し、デバイスの入出力での測定用に極めて広いダイナミックレンジを保証できます。最先端のQAlibria®校正ソフトウェアと検証済みの校正サブストレートにより、業界標準の先進的な校正方法が実現されます。また、NIST StatistiCALソフトウェアパッケージとリンクすることで、計量レベルのNISTマルチラインTRL(Through‑Reflect-Line)校正を行うことができます。

MPI TS200-THZ手動プローブシステムの基本原理は、自動プローブシステムであるMPI TS2000-IFE THZ-Selectionと同じです。どちらのシステムも高精度ポジショナーと専用設計のプラテンを用いて、オンウエハー測定時の最適な性能を実現しています。手動システムでは、ウエハーの正確な位置決めと周波数コンバーターへの近接を実現することにより、被試験デバイスとの正確な位置合わせと接触が可能です。このデザインは、信号損失を最小限に抑え、機械的衝突を減らし、被試験デバイス(DUT)に提供されるパワーを向上させることができるため、ロードプルを含むサブTHzアプリケーションに不可欠な機能になっています。

同様に、自動システムであるMPI TS2000-IFE THZ-Selectionには、手動システムと同じ考え方に基づいて、高度な専用設計のプラテンと高精度ポジショナーが搭載されています。自動システムでは、制御された安定した測定条件が維持されます。これは、信頼性と再現性に優れたサブTHz測定を実現する上できわめて重要です。この自動システムにはMPIの先進的な周波数エクステンダが一体化されており、中断のない信号伝送を実現できるため、優れた確度でRF、ミリ波、THz測定を行うことができます。

これらの手動システムまたは自動システムはいずれも最大300 mmのさまざまなウエハーサイズに対応できる設計になっているため、幅広い半導体アプリケーションに対応可能な汎用的なソリューションとして利用できます。これらの先進的なシステムを利用すると、研究者やエンジニアは高周波数ドメインで半導体テクノロジーの研究を行い、オンウエハー特性評価で優れた確度と再現性を実現できます。

THzレンジに拡張された3ポート測定のサポートもMPIシステムの独自の機能です。これにより、ミリ波および局部発振器(LO)ポートを同時に結合することで、広帯域サブハーモニック・ミキサー・テストを行うことができます。

チューニングレンジへの損失の影響:従来型のチューナー構造とFocus Deltaチューナー(RFプローブを直接接続)の比較
チューニングレンジへの損失の影響:従来型のチューナー構造とFocus Deltaチューナー(RFプローブを直接接続)の比較
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ロードプルとインピーダンス変換

デバイスの完全な特性評価を行うには、ロードプル/ソースプルが必要です。これにより、半導体被試験デバイスに定められたインピーダンスを与え、さまざまなソース/ロードマッチでDUTの特性評価を行うことができます。デバイスモデリングは、ロードプルの重要な用途の1つです。パワーアンプなどのアクティブデバイスの最も効率的な動作を見つけることもロードプルの用途です。最大出力パワーや電力付加効率に関するアクティブコンポーネントの動作は、加えられるインピーダンスに大きく左右されます。最後に、これも大事なことですが、測定器は通常50 Ωの環境向けに設計されています。ウエハーレベルのアクティブコンポーネントは、この値からかけ離れています。ウエハーレベルのテストでは通常、インピーダンスチューナーを使ってインピーダンスマッチングを適用します。

包括的なソリューションを実現するため、ローデ・シュワルツはFocus Microwavesと協力し、同社のDeltaチューナーを使用しています。Focus Microwavesの新しいDeltaシリーズの電気機械式チューナーは、特に高周波数のオンウエハー測定用に設計されています。このチューナーは小型であるため、ウエハーの外周に設置することができ、プローブチップとチューナーを直接接続できるため、DUTとチューナー間の挿入損失をすべて除去できます。この画期的なチューナーデザインにより、エンジニアは大幅に小型・軽量化されたチューナーを使って最適なチューニングレンジを実現できます。Focus Microwavesは、1.8 GHz~110 GHzの周波数をカバーする幅広いDeltaインピーダンス高調波チューナーを提供しています。

Focus Microwavesは、Deltaチューナーのテクノロジーを活用し、小型チューナーの高精度な確度と再現性を組み合わせることで、110 GHzよりも大きな周波数向けの新しい導波管チューナーシリーズを開発しました。Focus Microwavesの小型導波管チューナーと最新のオンウエハー統合により、サブTHz導波管プローブと直接接続することで、幅広いチューニングレンジを実現できます。入力/出力進行波形(a1,2、b1,2)測定用の内蔵リフレクトメータにR&S®ZRXxxxL レシーバーを組み合わせることで、サブTHzチューナーを使って完全に校正済みのベクトルロードプル測定を行うことができます。このアプローチは、パッシブロードプルシステムのチューニングレンジを拡げるのによく使用されるハイブリッド手法にも容易に適用できます。

Focus Microwaves導波管チューナー、モデルW1701100BV(©Focus Microwaves)
Focus Microwaves導波管チューナー、モデルW1701100BV(©Focus Microwaves)

アプリケーション

VNAとプローブステーションを組み合わせたこのベースシステムにより、RFデバイスのオンウエハー測定が可能になります。MPI Corporationは、最大110 GHzに対応できるシングルエンドプローブや、高度なバイアスに対応したマルチコンタクトプローブなどの幅広いプローブを提供しています。

RFコンバーターと専用のMPI導波管プローブを統合することで、研究者は測定周波数レンジを拡大し、THzスペクトラム全体をカバーすることができます。これには、広く研究が行われている6G活動に不可欠なDバンドだけでなく、同様に6Gアプリケーションに必要な330 GHzまでの周波数の研究も含まれます。このように周波数を幅広くカバーすることで、研究者やエンジニアは半導体デバイスの特性評価を正確に行えるようになり、次世代の通信テクノロジーの発展の基礎を築くことができます。

VNA測定では、システムの校正が重要です。システムの校正は、システム全体を対象に以下の2つの手順で行われます。

1. MPIの校正ソリューションと付属ソフトウェアを使用したVNAとコンバーターのみでのオンウエハーシステムの校正。詳細については、MPIのアプリケーションノート『Simplifying the Art of Terahertz Measurements』(www.mpi-corporation.com/wp-content/uploads/ASTPDF/MPI-Simplifying-the-Art-of-Terahertz-Measurements.pdf)を参照してください。

2. システム内のロードプルチューナーの校正。これには、Focus Microwavesのソフトウェアを使用します。
校正の完了後、Focus Microwavesのソフトウェアはシステムソフトウェアとして機能します。このソフトウェアはチューナーを使って適用インピーダンスとR&S®ZNAを制御し、デバイスの特性評価を行うためのRF測定を実行します。
MPIプローバーで安定したテスト条件(位置決め)を実現します。さらに、冷却板とプローブステーション内のウエハーDUT周りの一体型エアフローによって動作中のDUTの冷却を実現します。

まとめ

通信とセンシングの進歩によってTHz周波数レンジへの拡張が進んだことで、半導体材料の最適化のニーズが高まっています。ローデ・シュワルツ、MPI Corporation、Focus Microwavesの3社は、サブTHzおよびTHzオンウエハー測定用の共同ソリューションを開発し提供しています。この共同ソリューションでは、ベクトル・ネットワーク・アナライザ、プローブシステム、インピーダンスチューナーを一体化することで、THz周波数での半導体デバイスの信頼性が高く正確な特性評価を実現しています。業界をリードする3社が協力して革新的なテクノロジーの開発を加速し、高周波数での通信とセンシングの新たな可能性を開いています。

詳細なブロック図と実現可能なスミスチャートでのインピーダンス・チューニング・レンジ

この図は、Dバンド・ベクトル・ロードプルのセットアップを示しています。これには、RFプローブに直接接続され、オプションの一体型双方向性結合器を用いて使用できる小型の導波管チューナーが含まれています。これらの一体型双方向性結合器を使用することで、外部ダウンコンバーターを接続して、DUTの入出力で順方向および逆方向の進行波を直接測定することができます。

周波数コンバーターを統合したオンウエハーステーションにより、THz周波数での測定が可能。
周波数コンバーターを統合したオンウエハーステーションにより、THz周波数での測定が可能。
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信号伝搬に高い周波数を用いることで生じるあらゆる制約に対して無線性能に関する6G要件を照らし合わせると、ミリ波回路やTHz回路では、パワーと効率性に関するスループットの向上が非常に重要になります。これらのRF回路の性能は、トランジスタやその他のアクティブデバイスの性能による制約を受けます。これらの周波数ではトランジスタの物理的な制約により、利用可能な最大出力パワーが大幅に低下します。このため、周波数が高いアプリケーションでは、半導体部品のRF動作を十分に把握しておくことが必要不可欠です。さまざまな動作条件や広い周波数レンジで新しい半導体デバイスの正確なモデルを作成することが、アプリケーションを使用する上で極めて重要になります。

可能な限り広いダイナミックレンジのミリ波デバイス特性評価が必要な場合は、ベクトル・ネットワーク・アナライザを使ってRF特性評価テストを行う当社のパートナーであるMPI Corporationが提供するウエハーレベルの測定システムが第1の選択肢です。ロードプルを追加することで、新しい半導体部品の詳細な特性評価を行うことができます。

インピーダンス・チューニング・レンジ

この図は、チューナー基準面での170 GHzでのFocus Dバンド(WR06)チューナーのインピーダンス・チューニング・レンジを表しています。チューナー基準面で16:1のVSWRを容易に達成できることがわかります。このチューナーのVSWR応答は、バンド全体を通じて非常にフラットになっています。
(©Focus Microwaves)

課題

最新の通信規格や通信テクノロジーでは、RFドメインの利用可能な空き周波数域を見つけるため、常に高い周波数レンジが使用されます。次世代のレーダーセンサや6Gなどの将来の無線システムでは、100 GHzを超える周波数域が使用されると見込まれています。これらは、サブTHzレンジとも呼ばれます。これらの周波数域は商用アプリケーションでこれまで使用されていなかったため、新しい半導体テクノロジーを開発し、コスト効率に優れた量産可能な半導体を実現する必要があります。高い周波数レンジでさまざまなアプリケーションを対象に、既存の半導体テクノロジーやまったく新しい半導体テクノロジーの研究や最適化が行われています。これらの周波数レンジを利用できる半導体テクノロジーはすでに存在していますが、コスト面や量産面で解決すべき課題が残っています。
サブTHz領域での半導体テクノロジーのRF能力についての研究が研究者やエンジニアによって進められています。こうした研究では、実証済みの安定した方法がすでに利用されています。これらの方法は、適切なウエハープローバーシステムを用いてウエハーレベルで直接行われます。部品の特性評価では、Sパラメータが広く利用されています。アクティブコンポーネントの完全な特性評価を行うには、ロードプルの手法を使って、デバイスの入力インピーダンスの制御と設定を行う必要があります。