MIMOフェージングシミュレーション

標準化されたフェージングプロファイルやユーザー定義のフェージングプロファイルを使用し、再現性のある測定を可能にするデターミニスティックなラボ環境で、現実的なフェージング条件下における製品デザインの検証と最適化が行えます。

マルチパス伝搬に起因するフェージング
マルチパス伝搬に起因するフェージング
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課題

MIMOレシーバーが実環境下で性能要件に適合できることを確認する必要があります。テストセットアップにおける重要なクライテリアには、再現性、テスト時間、コストが含まれます。

背景

最新の無線通信システムでは、さまざまな配備シナリオで発生するチャネル障害の対抗手段として、信頼性の高いレシーバーが必要とされています。

フェージングは、実生活で必ず発生する主要なチャネル障害です。それによって生じるレシーバー性能の低下が、エンドユーザー体感に影響を及ぼします。異なる伝搬経路を経由してレシーバーに到着する信号が、強め合う形または弱め合う形で重ね合わされると、信号の振幅と位相にばらつきが起こります。深刻なフェージング条件下では、これによって通信リンクが妨害される場合もあります。広帯域チャネルでは、マルチパス伝搬が原因で符号間干渉(ISI)が発生し、レシーバーの性能が大幅に低下する可能性があります。

さまざまなフェージング条件下でのレシーバーのイミュニティーを向上させ、MIMOといった特定の配備シナリオでレシーバーの性能を最大化するには、MIMOレシーバーアルゴリズムの性能をチップセット開発の早い段階で検証して最適化することが不可欠です。標準化されたレシーバー性能要件への準拠を検証するための、3GPP、IEEEなどに準拠したコンフォーマンステストや、品質保証を目的としたユーザー定義テストも実施する必要があります。ただし、これらのテストをフィールドで実行するのは困難な場合があります。フィールドテストでは十分な再現性が得られないほか、コストと時間がかかります。

それに代わる方法としては、包括的なフェージングプロファイルを適用することにより、実際のフェージング条件をラボでエミュレートすることです。ラボでフェージングシミュレーションを実行すると、フィールドテストとは対照的に、制御可能でスケーラブルな、再現性のあるテスト条件が得られ、時間とコストの大幅な節約になります。

2X2 MIMOレシーバーの性能をテストするための従来のテストセットアップ。
2X2 MIMOレシーバーの性能をテストするための従来のテストセットアップ。
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従来のテストセットアップ

従来のテストセットアップは、通常、1つ以上の信号源とRFフェーダーで構成されています。次ページの最初の図に、(2つのMIMOレイヤー信号を配信するための)2台の単一チャネル信号発生器と1台の外部RFフェーダーで構成される、2x2 MIMO用のテストシナリオを示します。このセットアップには、大きなフットプリントが必要です(この例では、測定器が3台必要です)。こうした占有面積が大きく、費用がかさむセットアップには、複数の測定器を個別に構成および制御するという、操作面での難しさもあります。RF出力パワーのレベル校正といった単純な操作でさえ、非常に複雑化します。従来のテストセットアップのフットプリント、コスト、複雑さは、MIMO次数の増加とともにリニアに増加します。

R&S®SMW200A ベクトル信号発生器を使用した2x2 MIMOレシーバーの性能試験用のコンパクトなテストセットアップ。
R&S®SMW200A ベクトル信号発生器を使用した2x2 MIMOレシーバーの性能試験用のコンパクトなテストセットアップ。
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ローデ・シュワルツのソリューション

R&S®SMW200Aは、ハイエンドのベクトル信号発生器です。オプションの統合型リアルタイムベースバンド・フェージングシミュレーションを使って複数のRFパスに対応するので、最先端のコンパクトなソリューションが実現されます。R&S®SMW200Aを使用すると、1台で最大8つの個別ベースバンド信号の生成と、フェージング(オプション)が可能となり、最大800 MHzのフェージング帯域幅が得られます。R&S®SMW200Aソリューションの場合、従来のテストセットアップとは異なり、2x2 MIMO用に必要な測定器は1台のみです。コンパクトなR&S®SGT100A RF拡張ユニットを追加することにより、サポート範囲を8x8 MIMOまで拡張できます。

以下の利点があります。

  • 信号生成機能と統合型ベースバンドフェージング機能を1台で提供する、コンパクトなセットアップ
  • フェージング条件下での出力パワーの自動レベリングにより、追加のレベル校正が不要
  • ベースバンドで信号にフェージングをかけるため、信号変換損失(アップ/ダウン変換、A/D変換)が発生しない
  • 外部RFフェーダーを使用するセットアップと比較してコストパフォーマンスの高いソリューション

R&S®SGT100A ユニットを使用してRF出力を柔軟に拡張可能。その際、R&S®SMW200A上での集中制御によって最大8レイヤーのMIMO次数をサポート

R&S®SMW200Aでのマルチパス・フェージングチャネルの構成。
R&S®SMW200Aでのマルチパス・フェージングチャネルの構成。
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3GPP、IEEEなど多くの規格に準拠した定義済みのチャネルモデルをプリセットとして利用できます。標準フェージングプロファイル(ピュアドップラー、レイリー、ライスなど)と遅延プロファイル(バースデス、移動伝搬、高速列車など)も多数用意されています。さらに、ユーザーによるカスタム・フェージングプロファイルやカスタム遅延プロファイルの作成も可能です。代表的な使用例が、レシーバーのデザインと性能の改善を目的とした、極限フェージング条件下でのストレステストです。

ユーザーは、フェージングパスごとに、対応するダイアログで特定のフェージングプロファイル、パス損失、パス遅延を指定することで、さまざまなフェージングパスを持つフェージングチャネルを簡単に定義および構成できます。

マルチパス・フェージングチャネル構成のグラフィック表示。
マルチパス・フェージングチャネル構成のグラフィック表示。
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構成されたフェージングチャネルが、直感的なグラフィック表現としてユーザーに表示されます。マルチユーザーMIMO、キャリアアグリゲーション、MSRなどの高度な配備シナリオにも、有線接続(伝導)テスト環境と無線接続(OTA)テスト環境の両方で対応しており、測定器のGUIを介して簡単に構成できます。

まとめ

R&S®SMW200Aに統合されたフェーダーは、ラボでのリアルタイムのフェージングシミュレーションをシンプルで簡単な作業に変える、コンパクトなワンボックスソリューションを提供します。フェージングシナリオを簡単かつ柔軟にシミュレーションできるため、規格に準拠したレシーバーの性能試験だけでなく、制御可能で、再現性がある、スケーラブルな条件下での、カスタマイズされたフェージングシナリオに基づくテストも行えます。

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