無線通信の分野では、人工知能がレシーバーの信号処理の一部を担える可能性があります。主な目標の1つは、従来の処理アルゴリズムをニューラルレシーバーに置き換えること、あるいは少なくとも従来のアルゴリズムを補完することです。
"Andreas Rößler:ローデ・シュワルツ、6Gテクノロジーマネージャー
1968年に戻ってみましょう。カラーテレビが視聴者の喝采を浴び、通信の分野では、ほとんどの家庭に有線電話が普及しました。トランジスタラジオは、最も人気のあるモバイルテクノロジーの1つです。
この年に公開されたのが、スタンリー・キューブリック監督の名作SF映画「2001年宇宙の旅」です。この映画では木星への旅が描かれていますが、それをコントロールしているのは、高度な人工知能HAL 9000です。このAIは、人間の声で宇宙飛行士と会話し、自律的な意思決定によって宇宙船を制御し、常時システムデータを分析して潜在的問題を監視しています。
ほぼ60年後の現在、人工知能はもはやSFではありません。大規模言語モデル(LLM)によるインテリジェントなアシスタントが、スマートフォンで動いています。インターネット上で私たちが目にする個人に合わせたおすすめ情報は、機械学習(ML)によって実現されています。ほかにも、医療、運輸、金融といった分野で画期的な発展があり、AIは私たちの仕事、生活、コミュニケーションのあり方を変えつつあります。
政治や企業も積極的役割を果たしています。政府が法的枠組みを整備する一方で、企業はその用途を模索しています。AIスタートアップ企業と並んで、これらの組織も独自の研究開発を進めています。
無線通信の分野では、人工知能がレシーバーの信号処理の一部を担える可能性があります。主な目標の1つは、従来の処理アルゴリズムをニューラルレシーバーに置き換えること、あるいは少なくとも従来のアルゴリズムを補完することです。
"Andreas Rößler:ローデ・シュワルツ、6Gテクノロジーマネージャー
世界の主な研究機関や業界の専門家は、未来の無線通信エコシステムについて、6G規格では信号処理に人工知能が用いられると予想しています。その目的は、時と場所を問わず、データレートを上げ、遅延を減らすことにあります。これは、エクステンデッドリアリティー(XR)、自動運転、スマートファクトリーといったアプリケーションで重要な役割を果たします。
モバイル通信業界の長年のパートナーであるローデ・シュワルツは、欧州、アジア、米国の大学や業界団体の6G研究を積極的にサポートしています。ローデ・シュワルツとNVIDIAは共同で、AI技術による無線通信の改善の可能性を示しました。そこでは、ニューラルレシーバーが中心的役割を果たしています。
従来のレシーバーが数学的アルゴリズムだけで動作するのに対し、ニューラルレシーバーは人工ニューラルネットワークを使用して信号を処理します。これにより、大量のデータからの学習を通じて、あらゆるネットワーク条件に動的に適応することができます。トレーニングされた機械学習モデルによるデジタル信号処理の管理は、モバイル通信における重要な段階の1つです。
ローデ・シュワルツとNVIDIAのニューラルレシーバーは、5Gおよび6G研究専用に作成されたNVIDIAのSionna™オープンソースライブラリを使用して開発されています。この共同プロジェクトでは、ローデ・シュワルツのハイエンドの信号発生/解析用テストソリューションを使用して、ニューラルレシーバーの性能を評価し、シミュレーション結果を確認しています。
当社のセキュリティースキャナーでは、異常検出のために人工知能が使われています。このイメージング手法は、人体の一部でない物体を検出するように設計されています。
"Andreas Hägele:ローデ・シュワルツ、マイクロ波イメージング担当バイスプレジデント
同社の広範囲のポートフォリオのもう1つの例として、R&S QPS クイック・パーソナル・セキュリティースキャナーが挙げられます。このドイツのテクノロジー企業が開発したソリューションは、全世界の空港で、シンプルで迅速なセキュリティーチェックのために用いられています。
このスキャナーは、ミリ波を使って瞬時に人体をチェックします。反射されたミリ波はニューラルネットワークによって数ミリ秒以内に自動的に評価され、疑わしい物体が存在するかどうかが示されます。
人工知能全般、中でも機械学習の潜在的可能性は莫大です。ドイツでは、企業の5社に1社がすでに人工知能を利用しています。ローデ・シュワルツでは、社内AIインキュベーションラボをはじめとする取り組みが、社内でのイノベーションを推し進めています。さまざまな部門のAI専門家同士の継続的な対話と、インキュベーションラボ自体に蓄積された膨大な専門知識自体が、きわめて効果的な触媒として働いています。
90年以上にわたり、イノベーションはローデ・シュワルツのDNAに組み込まれてきました。当社はこれからも、アイデアを現実に変え、AI、モバイル通信、センサーテクノロジー、計算能力の分野の進歩をシームレスに推進して統合することにより、より安全でつながり合った世界の実現を目指します。
AIは驚くべき新機能や新しいビジネスチャンスをもたらすので、理解して使いこなす必要があります。当社のイノベーション精神を活かすことで、パートナーやお客様にとって最適な付加価値を生み出せると考えています。
"Dr. Andrew Schaefer:ローデ・シュワルツ、テクノロジーコーディネーター(AI)