高解像度オシロスコープによるRDS(on)の測定

MOSFETのRDS(on)は、スイッチモードの電源アプリケーションの導電損失を判定するための鍵となるパラメータであり、特別な重要性を持っています。スイッチングMOSFETがオフ状態のときには、ドレイン-ソース間電圧が高くなりますが、オン状態になると、電圧はわずか数百mVまで低下します。このような低電圧の測定には、高解像度のオシロスコープが必要です。RDS(on)の測定には、プローブ補正と正しいプロービングも重要です。

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課題

逆モードで動作しているMOSFETのRDS(on)を計算するには、ドレイン電流と、ドレイン-ソース間電圧を測定する必要があります。ただし、オフ状態とスイッチング時のピークではドレイン-ソース間電圧が高くなるため、オン状態の比較的低いドレイン-ソース間電圧の測定は、標準的な8ビット分解能のオシロスコープでは困難です。また、プローブ補正が不十分だったり、プロービング方法が正しくなかったりすると、信号の歪みが大きくなり、オシロスコープのダイナミックレンジが十分であっても、誤った測定結果が得られる場合があります。

電子計測ソリューション

R&S®RTO/R&S®RTE デジタル・オシロスコープとR&S®RTO-K17/R&S®RTE-K17 ソフトウェアオプションを組み合わせて、適切なプロービング方法を使用すれば、RDS(on)を求めるためのドレイン-ソース間電圧測定を、広いダイナミックレンジで行うことができます。デジタル・ローパス・フィルターにより、最大16ビットの垂直軸分解能が得られ、ノイズを減らしてS/N比を上げることができます。ユーザーは、帯域幅(選択可能なバンド)を1 GHz10 kHz(10ビット~16ビット)の範囲で制限できます。これにより、スイッチモード電源アプリケーションのドレイン-ソース間電圧などの小さい信号の詳細が、ノイズに埋もれずに表示できます。

アプリケーション

正確な測定のための適切なプロービング方法とプローブ補正

高周波成分を持つ信号を測定する場合、プロービングに関して重要なことは、プローブ接続(信号ピンとグランド接続)から生じる「ループ」をできるだけ短くすることです。R&S®RT-ZP10パッシブプローブは、スプリング内蔵チップとスプリング式のグランド接点により、測定信号へのノイズや干渉の結合を最小限に抑えながら、安全な接続を実現します。これにより、MOSFETのピンや本体を直接プロービングすることができます。高解像度測定では、正確なプローブ補正もきわめて重要です。プローブ補正が不十分だと、測定誤差のために不正確な測定値が生じます。これは、ここで紹介している差動測定にも影響します。MOSFETのピンが接地されていない場合は、アクティブ差動プローブを測定に使用する必要があります。R&S®RT-ZD10 1 GHzアクティブ差動プローブは、付属する追加の10:1アッテネータによりプローブの電圧レンジを70 V DC/46 V AC(ピーク)にまで拡張できるため、このような用途に特に有用です。

高解像度モードでのきわめて小さい信号の詳細の解析

R&S®RTO-K17/R&S®RTE-K17 高解像度オプションを使えば、R&S®RTO/R&S®RTE デジタル・オシロスコープの分解能をきわめて柔軟に拡張できます。このソフトウェアオプションは、デジタルフィルターを使用して、オシロスコープの分解能を高めます。最大16ビットの分解能を実現できるので、ダイナミックレンジが非常に広い条件でも、詳細な解析が可能です。高解像度モードは、わずか数ステップで簡単にセットアップできます。

  • "Mode" ボタンを押します。
  • "Acquisition" タブで、"Option Mode" を押し、"High definition" を選択します。
  • 帯域幅を必要に応じて調整します。その結果の分解能で自動的に表示されます。

選択する帯域幅は、十分な分解能を得るためにはできるだけ小さい方がよいですが、フィルターによる信号の歪みを最小化するためにはできるだけ大きくする必要があります。理想的な測定帯域幅は、ケースごとに判定する必要があります。

RDS(on)計算の際のオフセットの問題の回避

測定する電圧レベルにこれだけ差がある場合は、正しい結果を得るために追加の手順が必要です。オシロスコープのオフセット確度が不十分であるために、単にMOSFETのドレイン-ソース間電圧をドレイン電流で割るだけでRDS(on)を求めることはできません。また、ロゴスキープローブを使用してMOSFETのドレインピンの電流を測定する場合は、測定できるのはドレイン電流のAC成分だけです。このため、オシロスコープ上に表示される電流測定値には、DCオフセットがあります。

この問題を解決するには、MOSFETがオン状態のときに、ドレイン電流は特定の期間内で一定またはほぼ一定の傾きを示すという性質を利用します。これにより、高解像度モードで差動法を使用してRDS(on)を計算できます。

  • オシロスコープの垂直軸スケールを調整して、ピークを含むドレイン-ソース間電圧の最大値が、オシロスコープの入力電圧レンジを超えないようにします。そうしないと、過負荷と飽和の影響により、ドレイン-ソース間電圧測定の確度が低下します。
  • ズームモードを使用してドレイン-ソース間電圧を表示し、ドレイン-ソース間電圧の傾きがはっきりわかるようにします。
  • 残っている不要なノイズや干渉を取り除くために、アベレージングをオンにします。
  • ドレイン-ソース間電圧の傾きを測定して、ΔuDを求めます。
  • MOSFETのドレイン電流の傾きをΔuDと同じ期間で測定して、ΔiDを求めます。
  • ΔuDをΔiDで割ってRDS(on)を計算します。

スクリーンショットはこの測定を示します。

高解像度モードで50 MHz帯域幅で波形アベレージングを使用することにより、16ビットの垂直軸分解能が得られ、高倍率でズームした波形が非常に鮮明に表示されます。
高解像度モードで50 MHz帯域幅で波形アベレージングを使用することにより、16ビットの垂直軸分解能が得られ、高倍率でズームした波形が非常に鮮明に表示されます。

まとめ

R&S®RTO-K17/R&S®RTE-K17高解像度オプションを使用すれば、通常の8ビットのオシロスコープではノイズに埋もれてしまう信号の詳細を測定できます。スイッチモード電源アプリケーションのRDS(on)のように、測定信号のダイナミックレンジがきわめて広い場合でも、パラメータの測定が可能です。プロービング方法とプロービング補正は、測定結果に重大な誤差をもたらす可能性があるため、正しく行うことが重要です。このようなダイナミックレンジの広い測定を行う場合は、いくつかの条件で測定を実行して、測定結果が正確であることを確認することをお勧めします。

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