5G New Radioテスト規格を使用した24~28 GHzパワーアンプのテスト、課題および結果

移動中のHDビデオの視聴や、自動運転、産業用IOTなど、用途が無数に広がることでモバイルネットワーク上ではデータ要求が増え続けており、新しい5Gネットワークの一部は、ミリ波周波数で、英国用にパイオニアバンドとして配分された26 GHz帯(24.25~27.5 GHz)を使って展開されることになります。

周波数が4Gネットワークより10倍近く増加するため、必要なサブコンポーネント、ネットワークインフラ、エンドユーザー機器のデザイン/実装と、これらの開発を推進するために使用されるテスト/測定方法の両方で、複数の課題が発生します。

このプレゼンテーションでは、これらの周波数でのデバイスのテストと測定における主な課題をいくつか示します。そのあとに、5G NRテスト波形を使用した、26~28 GHzパイオニアバンドでのデュアルチャネル増幅器評価モジュールのテストについて紹介します。

Tudor Williams1、Darren Tipton2、Florian Ramian3

1 Compound Semiconductor Applications Catapult, Regus House, Falcon Drive, Cardiff Bay, Cardiff CF10 4RU, UK

2 Rohde and Schwarz UK Ltd, Harvest Crescent, Fleet, GU51 2UZ, UK

3 Rohde & Schwarz GmbH & Co. KG. Muehldorfstrasse, Munich, Germany

はじめに

最近まで、3GPP移動体通信規格では周波数レンジ2~3 GHzのバンドを使用しており、単一チャネル帯域幅が20 MHzを超えることはありませんでした。3GPPリリース15および5G New Radio(5G NR)テクノロジーの登場によってこの状況は変化し、6 GHz未満の周波数スペクトラムで最大100 MHz、ミリ波スペクトラムで最大400 MHzのチャネル帯域幅が提供されるようになっています。

LTE規格と3GPP 38.141の5Gバージョンの測定を比較すると、LTEの測定方法の多くが、5G NRの同様の測定にそのまま取り入れられていることがわかります。ただし5G New Radioでは、追加「モード」の数により、潜在的な測定の数は大幅に増加しました。主な違いは、以下のとおりです。

  • 周波数レンジ1 FR1(6 GHz未満)とFR2(ミリ波)
  • 伝導測定対放射測定
  • FDD、TDD
  • さまざまな帯域幅(5~100 MHzまたは400 MHz)
  • サブキャリア間隔(SCS)
測定の課題

測定の課題

3GPP文書38.141-1には伝導測定が記述され、38.141-2には放射測定が記述されています。これらの文書には、FR1とFR2のどちらの周波数レンジでも、256QAMのEVM性能要件は4.5 %未満であることが記載されています。

文書では、引き続き、各チャネル帯域幅のEVM計算要件、FFTサイズ、および解析シグナルプロセッシングの処理対象となる使用サブキャリア間隔それぞれのEVMウィンドウ要件についても論じています。

FR1のEVM測定は伝導と放射の両方が可能ですが、FR2の3GPP規格測定は放射環境でのみ実行することになります。既存の規格と大きく逸脱しているのは、ミリ波周波数で要求される統合レベルがはるかに高いためです。ミリ波では、伝導測定を実行できる回路上のポイントが存在しないことが予測されます。そのため、システムのデザインのみならず、テストも複雑化しています。

FR2放射測定の4.5 %という厳しいEVMリミットを考慮した場合、規格で十分に対処していない、以下の3つのキーポイントを検討し、影響を緩和する必要があります。

  • 1. 周波数応答によるEVMの影響(振幅と位相)
  • 2. ノイズによるEVMの影響
  • 3. 歪みによるEVM(PAの非線形効果など)

3GPP 38.141の6.6.3.1に記載されているEVMの定義にはイコライゼーションの使用が含まれているため、この規格では測定におけるEVMの影響に広く対応しています。本質的に、測定中にチャネルの周波数応答と位相応答が補正されます。

測定でのノイズによるEVMの影響への対処は、間違いなく、OTA環境の方が困難です。システムの雑音特性によって測定対象デバイスのEVMが大きくならないよう、測定システムのリンクバジェット全体を管理する必要があります。

Testing-24-28GHz-Power-Amplifier-using-5G_02.png

項目1は、イコライザーを使用して特性評価し、補正することができます。項目3の特性評価と補正は、デジタルプリディストーションによって行えます。一方、ポイント2は、EVM測定では特性評価のみで、補正することができないため、デザインによって最小化するしかありません。図1は、DUTのないEVMテストシステムの生の性能を示したものです。ミリ波周波数でリンクバジェットを最適化するための要件に着目しています。ミリ波周波数では、6 GHz未満のバンドでの測定と比較してダイナミックレンジがはるかに小さくなります。

ここに示すDUTのテストでは、デバイスはコネクタタイプであるため、結果をシステム全体のデザインに有用なインプットとして提供できるように、3GPP準拠の波形と解析方法を用いる手法をとりました。

Testing-24-28GHz-Power-Amplifier-using-5G_03.png

テストセットアップ

図1に、テストセットアップを示します。テストセットアップは、SMW200A ベクトル信号発生器(RF帯域幅40 GHz、変調帯域幅最大2 GHz)、FSW43 シグナル・スペクトラム・アナライザ(RF帯域幅43.5 GHz、解析帯域幅2 GHz、リアルタイム帯域幅800 MHz)、E36313A プログラマブルDC電源(増幅器の2段にバイアス電圧を印加するために使用)で構成されています。

テストの第1段階では、SMW200Aに搭載したリリースバージョンのオプションSMW-K144を使用することで、前述の3GPP規格に準拠した極めてクリーンな5G NR波形を作成することができました。これにより、フラットな周波数応答と最大2 GHzの帯域幅が実現され、対応するFSW用のFSW-K144オプションを一緒に使用すれば、規格に準拠したパラメータ(この場合、伝導測定の範囲内)を使ってダウンリンク信号で必要となる詳細な解析が行えます。

テストの第2段階では、増幅器のデジタルプリディストーション(DPD)を確認し、DUTによって生じる歪みを考慮した信号を印加した場合のデバイスの性能を決定します。これらの測定の実行には、3GPPに準拠した波形と、FSWシグナル・アナライザで提供されるFSW-K18 増幅器テストファームウェアが利用されています。このファームウェアを使用すると、AM/AM、AM/PM、利得圧縮、ACPなど、EVM以外のデバイス特性をDPDの適用時と非適用時の両方で測定できるため、最終テストシステムで達成可能なデバイスの最適な性能がわかります。

デバイス概要

テスト機器 - 24~28 GHzデュアルチャネルPA

ミリ波5Gの最終的な運用バンドについては、2019年のWorld Radio Conference(WRC-19)で合意される予定です。ヨーロッパでは、RSPGが、2016年11月にStrategic Roadmap Towards Europeでミリ波5Gのパイオニアバンドとして26 GHz帯(24.25~27.5 GHz)を推奨しています。

図3は、Plextek RFI社によって開発された、24~28 GHzパワーアンプMMICの写真です。優れた性能でパイオニアバンドに対応します。このパーツは、24.5 dBmを超えるP1dB出力、約20 dBの利得が得られるように設計されており、1 dB圧縮ではバンド全体で22 %を超えるPAE、6 dBバックオフで7 %を超えるPAEを実現します。

Testing-24-28GHz-Power-Amplifier-using-5G_04.png

将来の5Gネットワークにおける重要な課題の1つは高レベルの統合であり、例えば、ビームステアリングに使用されるフェーズドアレイで必要となります。ビームステアリングの場合、単一のパッケージに複数のMMICを搭載する必要があると見込まれます。

こうした統合の一例として、Compound Semiconductor Applications Catapult社は、上記のPA MMICを単一の低コスト7 mm×7 mmラミネートQFNパッケージに2つ搭載した評価モジュールを設計/製造するため、Plextek RFI社とFiltronic社との共同開発を委託しました。

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図4に、実現されたデュアルチャネル増幅器を示します。MMICの性能はウエハー測定のRFとほぼ同じで、小信号とパワー性能でわずかな違いが見られるだけです。

図5 – 基準入力パワーでの利得
図5 – 基準入力パワーでの利得
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図6 – 基準入力パワーでのACPR性能
図6 – 基準入力パワーでのACPR性能
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測定結果

利得とACP - 基準測定

可能な限り測定条件を厳しくするため、測定には、5G NRダウンリンク規格に準拠した波形(中心周波数26 GHz、帯域幅400 MHz、256QAM変調)が使用されました。
デバイスの「基準」RMS利得は、圧縮から十分に離れたポイントで測定され、結果は19.6 dBとなりました。図5に、得られた性能を利得として示し、図6に、ACPの性能を示します。

図7 – 24~28 GHzパワーアンプMMIC
図7 – 24~28 GHzパワーアンプMMIC
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圧縮時の測定

デバイスの最大入力パワーは、10 dBmピークとして評価されています。これを基に、ワーストケースの結果を得るため、デバイスにはこのレベルの真下での駆動という、非常に厳しい条件が課されました。

このレベルで入力信号を印加すると、結果は、入力パワー-1.3 dBm、利得=19.1 dB、信号の波高率圧縮1.8 dBとなります。

これらの条件下で、増幅器は5.1 %の平均EVMを達成しています(図7)。

図8 – 圧縮率が高く「既知のデータがない」状態での3GPP準拠
図8 – 圧縮率が高く「既知のデータがない」状態での3GPP準拠

この時点でデバイスを3GPPに準拠したシグナルプロセッシング条件下で測定すると、生成されるEVMは4.69 %で、値が低下します (図8)。理由は、3GPP測定条件下では、シグナル・アナライザは復調中に基準信号を再構築しようとするためです。復調信号にビットエラーなどの大きな歪みがあると、不正確な基準信号が作成され、EVMの数字の誤りが発生します。

こうした条件下で正確なEVMを測定するには、送信された信号をシステムが完全に把握している必要があります。つまり、既知データ手法をとることが必要です。

これは、デバイスメーカーおよび測定エンジニアが認識する必要がある重要なポイントです。

図9 – 圧縮率の高い条件下でのACP
図9 – 圧縮率の高い条件下でのACP
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隣接チャネル性能を見ると、生の増幅器性能の隣接チャネルパワーは、下側チャネルでは32 dBc(400 MHzのオフセット)、上側チャネルでは33.5 dBです。

ACP測定も、圧縮測定からパワー3 dBおよび6 dBバックオフで実施され、それぞれ38 dBcおよび43 dBcとなりました。

図10 – DPDを適用した場合のEVM
図10 – DPDを適用した場合のEVM
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DPDによる測定結果

デバイスの非線形性に対する補正は、ネットワークに展開される最終製品で使用される際の現実的なシナリオであるため、デバイスの補正「能力」を示すことは有用です。

それには、FSWの内蔵DPDアルゴリズムを使用して、DPDの前後のEVMとACPを測定できるようにします。Direct DPDのこの方法に使用されるアルゴリズムは、参考資料[2]および[3]に記載されています。

この場合も中心周波数は26 GHzで、フルロード、256QAM 400 MHz帯域幅の搬送波を使用し続けます。再度、増幅器をその測定パワーで駆動し、増幅器の圧縮率を高めます。

図11 – DPDを適用した場合のACP
図11 – DPDを適用した場合のACP
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DPD前の結果は上記セクション5.2で説明しましたが、DPD後のEVMは、5.1 %から1.7 %に改善しました

DPDを適用した場合、ACPも32 dBから約42 dBに劇的に改善されています。

図12 – DPD前のAM-AM、AM-PM性能
図12 – DPD前のAM-AM、AM-PM性能
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増幅器のAM-PMの劇的な改善は、補正の前と後の対応するAM-PM性能を示した図12および図13を見ると明らかです。圧縮で約10 degのAM-PMが、レベルポスト補正をほぼ無視できるまで低減されています。

図13 – DPD後のAM-AM、AM-PM性能
図13 – DPD後のAM-AM、AM-PM性能
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まとめ

増幅器のノーマル動作条件では、最も効率を高めるため、増幅器は通常、圧縮状態または圧縮に近い状態で駆動されます。3GPP規格の4.5 %のEVM目標を達成するには、明らかに、ある程度のプリディストーションを増幅器に適用することが必要です。

性能限界を押し広げようとする際の増幅器の測定には、ダイナミックレンジから正確で再現性のある変調品質測定まで、測定上の課題が数多く発生します。RFエンジニアは、3GPP規格のコンプライアンス条件下のみならず、現実的な動作条件下でのデバイスの限界も把握することが重要です。

この記事では、多くの業界パートナーの協力のもと、5G New Radioの主要なテーマに関するデザイン上と測定上の課題について、重要な洞察を行いました。

参考資料

[1] 3GPP TS 38.141-1 and 38.141-2 v1.1.0, 3rd Generation Partnership Project; Base Station (BS) conformance testing.

[2] Amplifier Characterization Using Non-CW Stimulus http://ieeexplore.ieee.org/iel7/7990360/7999522/07999563.pdf

[3] R&S Application Note 1EF99: Iterative Direct DPD https://www.rohde-schwarz.com/us/applications/iterative-direct-dpd-white-paper_230854-478144.html

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